NIKKEI STEAM 関西発、共創の交差点

STEAM COLUMN 識者・教授・教諭によるSTEAM関連コラム

2022.03.25

STEAM教育を実践するために現場の環境づくりを

STEAM教育を実践するために現場の環境づくりを

 国際的なロボットコンテストに7年連続日本代表として出場、世界一にもなった実績を持つ追手門学院大手前中・高等学校ロボットサイエンス部。顧問であるロボット・プログラミング教育推進室室長の福田哲也さんは生徒たちの姿にSTEAM教育の重要性を実感しているそうです。今回は、これからの学びとその環境づくりについてお聞きしました。

ロボット開発を通して世界を広げるロボットサイエンス部

ロボット開発を通して世界を広げるロボットサイエンス部

 ロボットサイエンス部はSDGsなどの社会課題に向き合い、デザイン思考をもとに、ロボット開発によって解決することをコンセプトに活動しています。創部から8年がたち、6名だった部員は、現在では中学生と高校生を合わせて50名以上。同じ敷地内の中学と高校が連携できるのは中高一貫校ならではの特徴かもしれません。世界規模のロボコンの一つであるWRO(World Robot Olympiad)には7年連続で世界大会に出場しており、2021年には「再生可能エネルギーの促進のためのエネルギーロスをなくす新交通システム」を開発した高校2年生の2人が日本代表として参加しました。活動テーマについては、私からヒントを出すこともありますが、ほとんどの場合は生徒自身が考えて取り組んでいます。

 世界大会ではプレゼンやコミュニケーションなどで英語が必要なシーンも多く、ロボット工学だけでなく様々な分野を横断的に学ぶことができます。活躍する高校生の姿を入学したての中学1年生のうちから体感できるので、クラブ全体の意欲が高まりやすく、教育者として励みになります。

失敗の中に正解や変化を見つけることが子どもたちの成長に

 世界中でSTEAM教育の重要性がうたわれていますが、私は2004年からロボットサイエンス教育を展開していますので、私の方が少し早いぞと。(笑)
ロボットは、思ったように動作してくれません。常に失敗の繰り返しです。失敗が良いことだとは言いきれませんが、その中に正解や変化を見つけられることが成長の鍵。ロボットサイエンス部に入部する生徒は運動部に比べておとなしい性格の子どもたちが多いのですが、世界大会やオンラインを使用した国際交流といった挑戦をする中で、どんどんたくましくなる姿には、私も心を動かされます。より良い活動環境を整えるために、海外の生徒や駐日大使との交流機会を創出したり、3Dプリンターなど研究設備をそろえたりとあちこち走り回る日々です。

子どもたちの未来のためにロボットサイエンス教育の普及・啓発を目指して

子どもたちの未来のためにロボットサイエンス教育の普及・啓発を目指して

 現在、日本財団や奈良市、大阪市などからオファーをいただき、地域の小学生を対象にしたロボットセミナーも実施しています。先生役は私ではなく生徒自身。1時間の中で夢中に取り組む小学生の姿には、STEAM教育の重要性を強く感じます。すでにプログラミング教育は小学校にも導入されていますが、ICT環境の不足など教育現場はまだまだ課題を抱えており、文部科学省の定める指導項目ですら達成できていないのが現状です。世界の中でも日本の教育は明らかに遅れています。OECD(経済協力開発機構)が発表している『初等教育から高等教育の公的支出が国内総生産(GDP)に占める割合』で、日本は毎年、加盟国の中で最下位に近い順位。未来を担う子どもたちが、将来世界に取り残されないためにも、企業や官公庁など幅広い業種の人たちに、教育に対して理解を深めていただきたいと感じています。

 2021年には「大阪の若者が挑むSDGsを解決するためのロボット開発プロジェクト」として大阪・関西万博プロジェクトTEAM EXPO 2025「共創チャレンジ」に認定されました。ものづくりの聖地・大阪から世界に挑戦する中・高校生の姿をぜひ多くの人たちに見ていただきたいと思います。

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