NIKKEI STEAM

STEAM COLUMN 識者・教授・教諭によるSTEAM関連コラム

2022.07.15

「サイエンス研究会」の経験 探究カリキュラムに生かす

サイエンス研究会校内発表会でポスター発表するチーム

 奈良女子大学附属中等教育学校ではスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に初めて指定された2005年に「サイエンス研究会」を設置しました。自然科学に興味がある生徒たちが探究活動を主体的に行う課外の数学・科学クラブで、教科横断的な活動や大学、企業、他校との連携などに取り組んできました。この研究会での指導を通じて得られた経験は本校の探究活動のカリキュラムづくりに生かされ、研究会に所属するメンバーが、他の生徒たちの活動に好影響を与えています。本校における探究活動、ひいてはSTEAM教育の核になるような存在といえるでしょう。

大学、企業、他校との連携も

 サイエンス研究会には本校の1~6年生の生徒約700名のうち約100名が参加しており、運動系など他のクラブ活動と掛け持ちをしている生徒もいます。数学、物理、化学、生物、地学の5つの班に分かれ、個人、グループでそれぞれ興味のあるテーマの研究を進めています。教科の垣根を越えた交流を促しており、例えば数学班は物理班と一緒に活動し、お互いに刺激を与えています。地学班でも物理班との連携で、プログラミング技術を活用して地震の振動をモデル化するといった事例もあります。

課題研究授業でのディスカッション
課題研究授業でのディスカッション

 研究が行き詰ったり、研究内容が高校レベルを超えたりするような場合に奈良女子大学をはじめ、大学教員らの助けを借りることもあります。指導する教員がアドバイスをすることもありますが、多くは生徒が個人的に調べ、コンタクトを取っています。また、小麦の栽培研究プログラムへの参加や、電子管楽器の作製でヤマハの技術者との情報交換など、企業と連携するケースもあります。企業の研究プロジェクトへの応募のほか、生徒の研究についての記事がきっかけになり、企業側から持ち掛けられるケースもあります。

 サイエンス研究会は6月に研究成果の校内発表会を行っていますが、今年は対面とオンライン配信のハイブリッドの形で実施しました。参加登録している大学の教員や他校の生徒からコメントをもらうこともできます。こうした外部の評価は自分たちの研究を深めるうえで大いに役立っています。

「飛躍知」の育成を目指す

 本校のSSHは現在、4期目(1期5年間)に入っています。3期目は「共創力」を備えた科学技術イノベーターを育成するためのカリキュラム開発が目標でした。4期目は「飛躍知」を備えた科学技術イノベーターの育成を目指しています。「飛躍知」には複数の観点や考え方と関連付けて探究することができる視点の飛躍、他分野の手法や外部の専門家と連携したりする手法の飛躍、困難に直面したときに新たな発想で障壁を克服する発想の飛躍が必要となります。

 これらの実現に向け、本校では「6年一貫共創型探究活動カリキュラム」を導入しました。1、2年生を共創型学習の基礎期、3、4年生を充実期、5、6年生を飛躍期と位置付け、それぞれの発達段階に応じた探求活動に取り組むようにし、教科・科目融合授業の実施など、探究活動に合わせた授業内容の再構築も進めています。

サイエンス研究会校内発表会でのプレゼンテーション
サイエンス研究会校内発表会でのプレゼンテーション
サイエンス研究会校内発表会でポスター発表するチーム
サイエンス研究会校内発表会でポスター発表するチーム

 本校と奈良女子大学と協働で5、6年生を対象とした探求カリキュラムを開発し、中等教育から高等教育を接続する高大接続文理統合型探究プログラム(PICASO)も2019年から開講しています。文系と理系の生徒が混在して受講する内容のカリキュラムで、文理の枠にとらわれない「飛躍知」の育成に役立てる狙いです。

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