日経ウーマノミクスフォーラムから広がった帝塚山学院の研究 水質改善や食品ロス対策

帝塚山学院中学校高等学校科学部が最初に外部で発表したのは2019年の日経ウーマノミクスフォーラムシンポジウムでした。それに先立つ2017年、生徒のキャリア形成に向けた講演会に日本ポリグル(大阪市)の小田兼利会長を招き、同社の水質浄化剤について学びました。納豆のネバネバ成分であるポリグルタミン酸を原料に作られた浄化剤は粉状で、汚水に混ぜてかき回すと汚物を凝集・沈殿させ水がきれいになります。それ以来、ポリグルは同校科学部の重要な研究テーマとなっています。
「近所の池をきれいに」がきっかけ 乾きにくい寿司ネタも
2019年のシンポジウムで、科学部はポリグルを使って学校の近くの万代池をきれいにするという研究と、ポリグルの保水効果を利用して食品ロスを少なくするという研究を発表しました。それまでは解剖をしたり、花火を作ったり、夏休みにペルセウス座流星群を見に合宿するなど単発的な活動を行っていました。

帝塚山学院高校には科学分野の授業を含む「創究講座」という探究的な学習の時間があります。その授業で、課題を見つけて実験し発表するということを実践していることが科学部のバックボーンになりました。創究講座は全生徒が取っていますが、様々な分野から選択した授業を、高校1年生が半年間、2年生が1年間受講します。科学部は中1から高3まで在籍できるので、より長い期間1つの研究を続けられるというメリットがあります。
ポリグルは発展途上国で水をきれいにするために使われているので、万代池に使えないかと考えたことが2019年のシンポジウムでの研究発表のきっかけになりました。コインを入れて自動的に動く水質浄化マシンがあれば、地域の方に参加してもらえるのでは、ということに興味を持った生徒もいれば、保水効果を生かして食品ロスを減らせる可能性に注目した生徒もいました。回転寿司店で食材が破棄されるのはネタが乾いてしまうからではないか、というところから発想を広げ、ポリグルを薄めた水溶液を刺し身やカットフルーツに塗り、水だけ塗ったものなどと乾き具合を比較しました。
また、水をきれいにした時に出る凝集物を肥料として使えないかと考え、2019年の終わりから芝生の育成に関する研究を始めました。
凝集物の肥料で成長促進も 水質浄化で固有種戻るか?
2020年度はコロナの影響で科学部の活動が制限されましたが、2021年度からはコイン式ろ過装置と凝集物の肥料としての利用を引き続き研究しており、現在の部員数は中学が15人、高校が13人となっています。
肥料の実験では二種類の鉢に二十日大根を植えて成長を観察します。片方はただの土、もう片方は凝集物を含んだ土を使って、成長度合を比較します。二十日大根については凝集物を使った方が成長が良かったという結果になりました。科学部顧問の長谷川恭平さんは「『ゆめちから栽培研究プログラム』(国産小麦を使った研究活動)のチャレンジ校に採択されたので、今後は小麦を使った同様の実験にも取り組む予定」と話しています。
コイン式ろ過装置は3Dプリンターで製作し子供用プールなどで試す計画です。装置自体の構造はまだ決まっていませんが、池の水を吸引し、箱の中にためてポリグルを入れて回転させるという方法が考えられます。「利用者が装置にお金を入れると浄化できるという設計にしたいと思います」(長谷川さん)。

万代池にはアカミミガメやクサガメなど外来種が多く、水がきれいになれば日本固有種が戻る環境になるのか、という課題にも取り組んでいます。ニホンイシガメを使い、ポリグルで浄化した水が固有種に影響を及ぼすかどうか確かめます。その内容を今年の日経STEAMシンポジウムのポスターセッションで発表しました。2匹のカメを用意して、片方は水道水もう片方は浄化した水で飼育。「ポリグルの悪影響があっては困るので、理想的な結果は2匹で差が出ないことです」と長谷川さん。「体重の伸びが同じようなグラフになっているので、カメの成長に影響はないようです」と話していました。
生徒は「まず手を動かす」「失敗するものと思う」ことが大切
科学や実験に興味のある生徒に対し、同じく科学部顧問の山本瑞さんは「まず手を動かしたり、調べるたりすることが大事」とメッセージを送っています。研究をする際、生徒から「何の意味があるのですか」と聞かれることが多いといいますが、「今知りたいと思ったことを調べて、それが10年後、20年後さらに技術が発達した時、違う発想につながるかもしれない」と話します。今年のSTEAMシンポジウム「学生サミット 未来の地球会議」では「納豆のネバネバ成分を利用して台風を弱める方法」について発表しました。山本さんは「高校生だけで調べられることに限度があることはわかっていました」と言いますが、それをきっかけに外部から様々な意見が出てくれば「もっと大きなプロジェクトになっていく」と期待しています。
長谷川さんは「研究とはほとんど失敗するもの」と話します。ただ、失敗を積み重ねた後、思い描いていたデータが取れて理想のグラフの形になった時など「やりがいを感じる瞬間があり、それが研究の魅力です」(長谷川さん)。