NIKKEI STEAM

EVENT REPORT 日経STEAMの講演会・イベントのレポート情報

自分だけの答えをつくる美術鑑賞ワークショップ
ワークショップ ルートヴィヒ美術館展×NIKKEI STEAM

ルートヴィヒ美術館展×NIKKEI STEAM ワークショップ

「ルードヴィヒ美術館展」を開催している京都国立近代美術館(京都市)

開催日2022年11月3日

日本経済新聞社は11月3日、京都国立近代美術館(京都市)で「ルートヴィヒ美術館展×NIKKEI STEAM 『対話型アート鑑賞ワークショップ』」を開催しました。京都、滋賀、大阪の7高校から39人の高校生が参加。ピカソやマティスなど、ルートヴィヒ美術館が所蔵する20世紀初頭から現代までの美術作品を鑑賞しながら、2時間余りのワークショップを体験しました。

「対話型鑑賞」とは、作品を見て感じたことや考えたことなどを言葉で表し、他者と共有しあうことによって、新たな気づきを得たり、思考力を高めたりすることを狙った鑑賞方法です。今回のワークショップでは専門家による解説は行わず、鑑賞者が作品を見たときに自発的に感じたことを重視するよう促しました。

「キャプションは見ない」「他の人の意見を否定しない」など、対話鑑賞についての説明を受けた生徒たちは3~4人のチームに分かれて開館前の美術館で作品を鑑賞しました。チームごとに1つの作品が割り当てられ、10分ほどかけてじっくりと作品に向き合います。近づいたり、遠くから眺めたり、しゃがんでみたりと、自由に動きながら思い思いの見方で作品を味わい、感じたことをメモします。その後、チームのメンバーと作品を見て感じたことや注目した点、その理由などを話し合いました。

作品に近づいたり、しゃがんでみたり、思い思いの見方で鑑賞する
作品に近づいたり、しゃがんでみたり、思い思いの見方で鑑賞する

「近くで見ると乱雑な感じだけれど、遠くから見るときれいに並んでいる」
「空間にゆがみがあるみたい」
「絵具の厚みにムラがある。衝動的に描いたのかな」

同じチームのメンバーと作品について話し合う
同じチームのメンバーと作品について話し合う

それぞれが思ったことや気づいたことを口にすると、確かめるように再び作品に近づいてみたり、どうしてそう思ったのか尋ねたりして、次第に対話が活発になっていきます。美術館の開館時間になると生徒たちは展示室から講堂に移動し、さらに対話を続けました。

対話型鑑賞では他人の意見を否定しないことが大切だ
対話型鑑賞では他人の意見を否定しないことが大切だ

ワークショップの講師を務めた京都市立銅駝美術工芸高校の渡邉野子副校長は「大切なことは『問い』を見つけることです」と話します。正解を求めるのではなく、それぞれが先入観抜きに作品と向き合い、五感で感じたものを言語化する。それをほかの人と共有することで、自分にはなかった視点や捉え方を知り、新たな気づきを得てさらに思考を深められるといいます。

「現在の私たちの生活は情報があふれ、先のことは分かりません。不確定な時代に向き合うためには、様々な物事を融合して考える力が求められます」と渡邉さん。対話型鑑賞はSTEAM教育の「A」、アート教育の一環であり、学問の領域を超えて学ぶことで、新たな価値を作り出す人材を育てることを目指しています。

ワークショップの最後には、それぞれのチームでどのような話し合いがあったのかを発表しあいました。鑑賞した作品は抽象画や静物画、彫刻など多岐にわたり、チームによって対話の内容も異なります。ほかのチームの発表を通じて、さらに作品の見方が広がりました。

各チームで話し合ったことを発表し、ほかのチームの人たちと共有する
各チームで話し合ったことを発表し、ほかのチームの人たちと共有する

参加した生徒は「自分とは違う意見を聞いて新しい見方を知り、より作品を楽しめました」と話します。「私は作品を見るときに仮説にとらわれていたと気づきました。答えは出なくても、作品への思いが増えていくのがいいと思います」という意見もありました。渡邉さんは「自由でいることは難しく尊いもの。まずはアート作品と向き合う自由を持ってほしい」と締めくくりました。

「ルートヴィヒ美術館展 20世紀美術の軌跡-市民が創った珠玉のコレクション」は、2023年1月22日まで京都国立近代美術館で開催中。(https://ludwig.exhn.jp