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テート美術館展×NIKKEI STEAM/大阪中之島美術館
ワークショップ テート美術館展×NIKKEI STEAM/大阪中之島美術館

対話型アート体験ワークショップ
「感動のしくみを探検してみよう」

日本経済新聞社は11月5日、大阪中之島美術館(大阪市)で「テート美術館展×NIKKEI STEAM『対話型アート体験ワークショップ』」を開催しました。

開催日2023年11月5日

日本経済新聞社は11月5日、大阪中之島美術館(大阪市)で「テート美術館展×NIKKEI STEAM『対話型アート体験ワークショップ』」を開催しました。大阪と、京都の5高校から合計44人の高校生が参加。今回の展覧会は世界的に評価の高い英国のテート美術館の膨大な収蔵品の中でも、「光」をテーマにターナーやモネら日本でも人気の巨匠の作品がそろいました。この日に参加された高校の生徒は他の学校の生徒ともすぐに打ち解け、2時間余りのワークショップを楽しく過ごしました。

今回の展覧会は大阪芸術大学のデザイン学科教授で、グラフィックデザイナーとしても活躍する杉崎真之助先生が講師を務めました。ワークショップのタイトルは「感動のしくみを探検してみよう」です。生徒たちは予備知識なしで、それぞれが割り当てられた作品を鑑賞し、直観的に思ったことを「オノマトペ」(主に擬音語、擬声語、擬態語)で表現するという内容でした。擬音語ならモノが割れる音は「ガチャン」、擬声語なら犬の鳴き声は「ワンワン」、そして擬態語なら星の輝きは「キラキラ」となります。杉崎教授は「美術鑑賞には、作品の時代背景や作家の考え方を知ることも重要ですが、まずは心に浮かんだことをオノマトペで口に出してみると新しい発見があります。自分の感性と直感を開放することで、心になにかの制約をなしに、作品に入っていけますから」と笑顔で語った。

今回のワークショップではまず、10チームがそれぞれ担当する作品を、開館前の美術館展示室で一緒に鑑賞します。生徒たちは真剣な表情で見つめていました。

例えば、有名な英国人画家であるターナーの「湖に沈む夕日」の前では生徒たちは作品に顔を近づけて見ていました。「近づいてよく見てみたら、一度描いても、それを削り取ったりしているところがあるのが分かりました。下から浮き出ているような色もあるのですね」。ある生徒はこんな感想を漏らしました。また、テート展では絵画だけでなく、天井からぶら下げた立体の作品もあり、生徒たちも上を見上げて「あれは惑星のよう。すごいエネルギーを感じるね」などと語り合っていました。

今回のワークショップに参加した高校は5校でした。同じチームに同じ高校の生徒がいないケースもありました。それでも、ある生徒は「こういう(他校の生徒と一緒の)ワークショップに参加するのは2回目です。それでもすごく楽しい。すぐにいろいろ話せるようになりました」と笑顔で語りました。

中央右が杉崎教授
中央右が杉崎教授

今回のワークショップが盛り上がったのは、作品を鑑賞した後のグループワークでした。それぞれがカラフルなマーカーペンを手に取って、自分たちの鑑賞作品について「オノマトペ」を好きなように書いていきました。それぞれのチームのエリアの床は書き込んだA4の紙であふれました。杉崎教授は一つ一つのチームを回りながら、「それ、面白いね」などと声をかけていました。

最後の発表会では10チームがそれぞれの鑑賞作品について、自分たちで選んだオノマトペを披露し、それを選んだ理由について、発表しました。あるチームの発表役の生徒はいきなり「うわー」と大きな声で叫んで、会場を笑いに包みました。A4の紙に書いたオノマトペの文字は「うゔっっつつあ゛ぁあ゛っつつ」だったようです。こんな面白い言葉を作り出したのは「(作品の中に)絶望や怒りが込められているように感じたからです」ということで、多くの生徒たちもこうした解説に納得した様子でした。それぞれのチームの発表を聞くことで、作品への知識を深めるだけでなく、美術鑑賞の楽しさを改めて強く感じることができたのではないでしょうか。

今回のワークショップで生徒を引率した大阪府立工芸高校の村田和久先生は「私たちの生徒は美術について学んでいるので、こういうワークショップには慣れてはいます。それでも、(テート展のようなところで)他の学校の生徒さんたちと交流できるのは素晴らしい機会ですね」と話してくれました。

杉崎教授も、こう語りました。「日本経済新聞社が取り組まれているSTEAMでは、科学や技術などと対立する概念かもしれないアート(ART)が入っています。この二つを結びつけるものはなんでしょうか。私はそれがデザインだと思います。このデザインの力を身に着けるには、イマジネーションを膨らませる力をつけることがとても大切です。今回のワークショップで生徒さんたちが何かを学んでくれたら、本当にうれしいです」。杉崎教授は今回の日経STEAMでのイベントの講師となってから、こういう思いを抱きながら、楽しいワークショップの準備をしてくださっていました。

日経STEAMでは2022年11月にも、京都国立近代美術館(京都市)で、対話型アート鑑賞ワークショップを開催しています。ピカソやマティスなど、ルートヴィヒ美術館が所蔵する美術作品を高校生たちが鑑賞し、自らの言葉で表現し、他者と共有しあうというものでした。今回のテート展のセミナーは2回目です。今後とも、高校生の皆さん、先生の皆さんに、STEAM教育の良さを知って頂くための機会を提供していきたいと考えております。

「テート美術館展 光 ターナー、印象派から現代へ」は、2024年1月14日まで大阪中之島美術館で開催中。(https://tate2023.exhn.jp/)