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新聞工場見学で、少し世の中を覗いてみよう!

日本経済新聞社は12月9日、最新鋭の印刷設備を備えた日経西日本製作センターの大阪工場(大阪市城東区)の見学会を開催しました。

開催日2023年12月9日

日本経済新聞社は12月9日、最新鋭の印刷設備を備えた日経西日本製作センターの大阪工場(大阪市城東区)の見学会を開催しました。進学校として知られる私立四天王寺高等学校中学校(大阪市天王寺区)の新聞部に所属する7人の生徒と、先生2人が参加しました。四天王寺中学校では授業で日経電子版を活用するなど、新聞を使った教育にも力を入れています。見学会は「新聞工場見学で、少し世の中を覗いてみよう!」がキャッチフレーズです。新聞の製作工程をじっくり見るだけでなく、日経の編集記者による経済解説のミニ講義も受けました。最後に刷り上がったばかりの夕刊を手に持ち、記念撮影をしました。その楽しそうな表情からは、見学会の雰囲気がよく伝わってくるのではないでしょうか。

見学会に参加した四天王寺高等学校中学校は、聖徳太子の教えである「和の精神」を建学の礎とした優れた人間教育で知られています。四天王寺高等学校中学校のある四天王寺は推古元年(西暦593年)に聖徳太子が建立しています。聖徳太子が亡くなられてから1300年の御忌記念事業として、ほぼ100年前の1922年に設立されたのが四天王寺高等学校(当時は天王寺高等女学校)です。その学園訓は「和を以て貴しとなす」から始まります。新聞部が発行するのも「和光」と題した歴史ある学校新聞です。今回の見学会では新聞部部長の高校2年生の中村さんら7人の部員たちが持ち前のチームワーク、つまり和を以って熱心に取材をしました。

「鮮やかな色がよく出ていて、きれいに印刷されていますね」「こんなに少ない人数で、こんなにたくさんの新聞が印刷されているなんて知りませんでした」———。生徒たちは、刷り上がったばかりの夕刊を手に取り、こんな驚きの声を上げました。高校2年生の玉田さんは「新聞の読者が読みやすいように色の調整を細かに行っているのですね。隅々まで品質管理が行き届いており、感動しました」と話しました。

見学会では「新聞のできるまで」が順を追って理解できるようにしています。まず、本社から工場に送られる新聞の紙面データを輪転機で印刷するための「刷版」というアルミ製の薄い板で原版を製作します。案内役の宮原行雄企画委員は生徒に触ってもらい、「この刷版の表面には紙面データをレーザー光で焼き付けるために感光材が塗られているのです」「刷版はアルミ製なので何度もリサイクルできます」などと説明していました。

正午前から夕刊の印刷が本格的に始まりました。刷版が輪転機にセットされ、高速回転して印刷されていきます。中村さんは「刷版から転写され、きれいに紙面が印刷されていくところはすごいですね」と、カメラで撮影しながら、熱心に印刷機を見つめていました。

生徒たちは1階下に降りていきました。そこは新聞のロール紙を印刷機械に供給する工程です。巨大なロール紙は1.2トンの重さです。無人搬送機で紙庫から次々に運ばれてきます。高校2年生の細川さんは「4階建ての輪転機もそうですが、すべてのスケールが大きくて、本当に驚きました。このロール紙を用意するところは無人化がすすんでいますね。企業として努力を積み重ねられてきたことがわかります」と笑顔で語りました。

一方、高校2年生の中西さんは「工場の機械が非常にコンパクトですね」と、細川さんとは異なった印象を口にしました。印刷工場の機械の多くは横に広いと思っていたが、輪転機のように天井に向けて縦に長い構造になっていることに感心したようでした。工場レイアウトの良さを見抜いたような専門家も顔負けのコメントでした。

最後の出荷工程も、大阪工場の見せ場の一つです。新聞は「鮮度が命」であり、出荷工程でも時間短縮のための知恵がしっかり生かされています。高校2年生の仲松さんは「販売店ごとにきっちり部数が計算されて梱包され、トラックの荷台のところまで自動で送られてくるのですね。こういう設備はすごく面白いです」と語りました。

工場を見学した後、2人の高校1年生部員に感想を聞きました。

泉田さんは「工場がすごくきれいでした。大阪工場さんの最新の設備はすごいのですが、工程の一部は手作業も残っていて驚きました。新聞を作るためにこんなに手間がかかっているとは知りませんでした」と驚いていました。吉﨑さんは「工場を見学させてもらい、いろんな人たちがこだわって作っていることが分かりました。これからは新聞をもっと読んで学んでいきたいです」と刺激を受けたようでした。

工場見学後には会議室で、大阪編集ユニットの石川雄輝記者による経済ミニ解説の講義を聞きました。最近は新聞各社が値上げに踏み切っています。ウクライナに侵攻したロシアへの経済制裁を背景に紙原料の木材チップや燃料の原油が値上がりしていることなどが影響していると解説しました。

石川記者は「説明は分かりやすさを意識しました。皆さん熱心に聞いてくださり、質問もハイレベルでした。この機会が、身近なことと世界の動きを結びつけて考えるきっかけになってくれたらと思います」と話しました。

中村さんは「個々の事案は知っていても、それがどのような業界に深刻な影響を与えているのか、さらに、他にどのような業界に打撃を与えるのか。こうしたことへの関心が減っていたことに気づかされました。これからは、もっと多角的な視点、考え方を持って、記事を書き、記事を読んでいこうと思っています」と振り返っています。

また、記事執筆などへのアドバイスを求められた石川記者は、最も重要なことは「正確さ」だと指摘しました。信頼できるソースやデータにあたり、細心の注意を払って記事の正確さを担保することの大切さです。

見学会に参加した⻆野先生は、「石川記者の資料では出典を常に明記していました。信頼できるデータを使って、自分の言いたいことを伝えようとしていると感じました。生徒には記者の姿勢を知り、新聞もしっかり読み、自分の意見をはっきりと、そして正確に伝えられるようにしてもらいたいです」と話しました。

新聞部顧問の井上先生は「今回の見学会で、生徒たちは洗練された設備、技術、作り手の本物の『思い』に触れ、大きな学びを得たように思います」と指摘しました。「今後は新聞に関連した探究授業なども行ってみたいです。新聞を読むだけでなく、『創る』ことに取り組む授業です。各生徒の関心や興味に基づいて記事を分担してミニチュア版の新聞をつくったり、完成した新聞の魅力などを伝えるプレゼンテーションをしたりすることができれば、より深い学びができるのではないでしょうか。」

そこには、生徒に「新聞」から世界への向き合い方を学び、「伝える」ための表現力を磨いてほしいとの思いがあります。

日本経済新聞社ではSTEAM教育を国内で浸透させるためにシンポジウムを開いてきました。STEAMが目指すのは、答えのない、誰も想像していない、そんな社会課題に挑戦できる人材の育成です。11月には高校生の創造力を刺激するために、美術鑑賞の体験型ワークショップも開催しました。今回の新聞印刷工場の見学も、STEAM教育に通じるところがあります。新聞というメディアに肌で触れることは、世界で起きていることを多角的に理解して伝えようとする力を身につけることにつながるからです。それこそが、答えのない世界で前に進むための羅針盤にもなります。

これからも日本経済新聞社はグローバルなメディア企業として、未来を担う高校生たちに、新たな学びの場を提供できるようにしていきます。