消える公立幼稚園 教育無償化で人気薄、浮いた財源焦点
公立幼稚園の閉鎖が全国で増えている。2019年10月から「幼児教育・保育の無償化」が実施され、私立に比べて費用が安いという長所が薄れたことが要因の一つだ。施設の数は21年までの5年間に全国で500以上減った。1施設あたり年間数千万円の運営費用が浮く計算で、地方自治体には財源を活用した効果的な子育て支援策が求められる。
東京都江東区の住宅街にある区立ちどり幼稚園。21年度の園児数は54人で11年度(118人)から10年で半減した。23年度末での閉園が決まり、園児の募集を停止している。貞方功太郎園長は「多くの私立と異なり給食や送迎バスがない。園児が減れば閉園の対象になるのは避けられない」と話す。
幼稚園は1947年施行の学校教育法で満3歳から就学までの教育機関に位置づけられる。公立・私立のバランスは地域ごとに異なるが、自治体運営の公立は70年代の第2次ベビーブームの受け皿として急増。ピークの85年には全国で6千施設を超えた。
しかし近年は閉鎖が加速している。文部科学省によると、2021年の公立幼稚園は、保育所機能もある「幼保連携型認定こども園」を含めて3965施設。17~21年の減少数は年平均134施設で、その前の5年の1.5倍超のペースになった。
原因は入園希望者の減少だ。江東区は区立20施設の定員充足率が21年時点で63%となり、同年度末に2施設を閉鎖した。「1人あたりの運営費は10年前の1.5倍となり、需要に合わせた見直しが必要」と担当者。26年度末までにさらに5施設を閉める。
京都府綾部市は2園ある市立幼稚園のうち、1園を23年に閉園し、発達障害のある子どもらの支援施設に衣替えする方針だ。市担当者は「ニーズが高まっている分野で園舎を活用していく」とする。
少子化は進んでいるが、共働き世帯の増加で教育・保育施設に通う子どもの数はそれほど減っていない。21年に幼稚園・保育所・認定こども園に在籍する子どもは380万人で、16年と比べ2%減だった。公立とは対照的に、幼稚園型・幼保連携型の認定こども園を含めた私立施設数は21年時点で1万1673に上り、17年から17%増えた。
「公立離れ」の要因の一つは19年10月に始まった幼児教育・保育の無償化だ。18年度の文科省の調査によると、家庭の年間支出は私立幼稚園の52万円に対し、公立は半額以下の22万円。家計の負担の差が無償化で小さくなった。
私立幼稚園は共働き世帯のニーズを踏まえ、保育所機能も備えた認定こども園への移行が進む。長時間の預かり保育など手厚いサービスを展開する私立幼稚園や認定こども園などに園児が流れたとみられる。
内閣府の調査によると「無償化で利用者が減少した」「やや減少した」と答えた公立幼稚園は52.9%で、私立(18.8%)を大きく上回った。現場には「幼児教育の機会が広く確保され、公立幼稚園は一定の役割を終えた」(自治体職員)との見方すらある。
焦点は閉園で浮く財源の行方だ。公立幼稚園の運営費用は1施設あたり年数千万円。国の財政措置もあるが、閉鎖により自治体の持ち出し分が浮く。神戸学院大の中野雅至教授(行政学)は「財源の使い道は自治体の裁量だが、無償化の政策効果を高める観点から、子育て支援と全く異なる分野への活用は望ましくない」と指摘する。
北九州市は25年に全ての市立幼稚園を閉園し、約2億円の運営経費削減を見込む。市は財源を「引き続き幼児教育の質の維持のために充てる」とし、私立幼稚園教諭らの研修などを強化するという。
子育て世帯に幅広い支援策を備える基礎自治体では出生率が高いとされる。公立幼稚園を閉鎖する場合には、地域のニーズを踏まえた新たな支援策の検討が必要になる。
経済協力開発機構(OECD)の17年のデータによると、子育て支援への日本の公的支出は国内総生産(GDP)比で1.8%で、OECDの平均(2.3%)を下回る。少子化対策が先行しているとされるフランス(3.6%)やスウェーデン(3.4%)と比べると半分程度の水準だ。
熊本学園大の伊藤良高教授(幼児教育行政)は「自治体は、地域のニーズを丁寧に把握した上で財源を有効に活用し、子育て支援策を充実させる必要がある」と指摘している。
(橋爪洸我、佐野敦子、勝見 莉於)
未就学児向け施設は3種類 保育所も公立は減少傾向
小学校入学前の子どもを預かる施設は大きく分けて幼稚園、保育所、双方の機能を併せ持つ認定こども園の3種類。認定こども園には主に既存の幼稚園、保育所それぞれを土台として機能を拡充したタイプ(幼稚園型、保育所型)と、職員が幼稚園教諭免許と保育士資格を両方持つ幼保連携型がある。
幼稚園は満3歳からで、幼稚園型こども園を含めて2022年5月時点で92万人が在籍。0歳から入所できる保育所は196万人(22年4月時点、保育所型こども園を含む)が利用する。幼保連携型こども園の園児数は21年4月時点で78万人。
保育所でも公立の割合(27%)は低下傾向にある。公立に限ると、保育所型認定こども園を含めて13年の9407施設から20年は7265施設に減った。厚生労働省の担当者は「少子化で定員割れの園もあり、閉園の動きはみられる。施設の老朽化も進み、統廃合の要因になっている」と話す。
(日本経済新聞電子版 2022年12月10日掲載)